BFN.11
2021/08/10
2日目、一足遅れて、ヤンズが、初めてレコーディングスタジオ入りした。
ひとみちゃんとは、なおちゃんやヤンジー同様、20年振りくらいになるのだろうか。
久々の再会に、会話も弾む。二人とも嬉しそうだ。
本日の録りは、「カサブランカ」のケイゾウのギターから。の予定だった。
この為に前乗りして、アキと共にギターアレンジを詰めていたケイゾウだが、初っ端から、アンプの不具合や急なアレンジの見直しといった、プレイヤー泣かせのトラブルに見舞われる。
何度か試行錯誤を重ねたが、しっくりこないということで、結局、先に別曲を録ることとなった。
バタバタの変更で気の毒だったが、慌てず騒がず、ケイゾウは、いつも通り黙々とプレイしている。
この時録ったのが、後に、星さんに「北海道ならではの乾いた音が捨てがたい」とおっしゃっていただいた「風になりたい」のアコースティックギターだ。頑張る者は報われる。
レコーディング中、皆が皆、卓の前に張り付いているわけではない。
実のところ、手の空いたメンバーは、頑張るケイゾウをよそに、のんびり談笑したり、この日登場したひとみちゃんの愛犬マールと戯れたりしていた。
倉本家の三匹の中でも、一番人懐こいフレンチブルドッグのマールは、たちまち我々のアイドルとなったが、犬が苦手なショウジだけは、この子に纏わり付かれて、終始固まっていた。
ドラムをバラす前に、1月にピアノを入れた「シエスタ」のリズムを録ることにする。
リズム隊の二人には、「ヘンリーマンシーニだからね!」と、普段のロック魂を封印して、「抑えて抑えて」演ってもらった。
「おねぇのピアノに寄り添ってみました」「さすが、ヤンジー!ありがとね~!」
そう、ヤンジーは、私のピアノにぴったり寄り添ってくれていた…はずだったが、なんと録りの間中、出ていたのは、ホリエさんがエディットしたプリプロの仮ピアノだった。
そのことに、だ~れも気づいていなかったが、「バッチリだね」と讃えあう我々のドヤ顔に耐えきれなかったのか、エンジニア河野さんが「…すみませんっ!」と白状した。一同爆笑。
ひとみちゃんも、「NK細胞、増えたわ~!」と、お腹を抱えていた。
圧巻だったのが、なおちゃんのコーラス入れである。
譜面にしないと覚えられないような難しいラインを、ひとみちゃんは口頭で伝え、なおちゃんは耳で理解し、体現する。お互いを信頼し、リスペクトし合う二人ならではの、やり取りが続く。
ラインも複雑なら、トラック数も多い、自称コーラスオタクのひとみちゃんのハードな要求に応えて、なおちゃんは、素晴らしい集中力でテイクを重ねた。
この日録った「人魚、還る」は、ヒトミィク作品のコーラスの中でも、一際、私の心に残っている。
22:00を過ぎると、通いのひとみちゃんとアキ、河野さんと映像チーム、スタジオのスタッフは皆、家路について、芸森に残るのは我々東京組だけになる。
ヤンズも合流し、メンバーが揃ったところで、ラウンジでの宴会も盛り上がった。
10年前なら、朝まで騒いで、翌朝起きてこないメンバーが続出するようなシチュエーションだが、さすがに我々も大人である。適量を嗜み、それぞれのタイミングで部屋に戻った。
芸森の夜は、しんとして、静かだ。
to be continued…
ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子
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