BFN.4

2021/06/16

11月に入り、東京組は初めてのリハーサルに臨んだ。
ショウジ、なおちゃん、ヤンジー、私、の4人に、ヤンズが加わる。

yanz(以下、ヤンズ)は、元Doveのベース&ヴォーカリストであり、現在は、Face to ace(聖飢魔IIのACEのユニット)のサポート等で活躍する一方、録音エンジニアとしても、多忙な毎日を送っている。
Doveでの、ベースを弾きながら歌う姿が鮮烈なため、生粋のベーシストかと思いきや、元々はギタリスト。今回は、ギターとコーラスでの参加になる。
ギターはもちろんだが、なんといっても、歌が良い。惚れ惚れとする声の持ち主だ。
ちなみに、なおちゃん、ヤンジー、ヤンズの3人は、揃って広島の出身。これも何かの縁か。

ひとみちゃんの歌を流しながら、各々アイディアを出し合う。
一応、譜面を起こしてはいたものの、まだ何も決まっていない、手探り状態だ。
バンドで曲を作り上げていく作業には、ちょっぴりの不安と、たくさんのワクワク感がある。
それぞれの感性がぶつかり合って、必ずしも全てが自分の思い通りにはいかない歯痒さと、自分のそれとはまったく異なる、新しいアプローチを発見する喜び。
このメンバーで集まって音を出せるというのは、幸せなことだ。
リハの後の、広島弁と北海道弁が飛び交う飲み会もまた、楽しいひとときであった。

一方、ひとみちゃんの方は、エンジン全開で、あらゆる作業に取り組んでいた。
曲を書き、デモを作り、スタジオで本歌のレコーディングをする。
全てを並行してこなしながら、もちろん合間には、検査や治療が待っている。

朝まで作業していることも稀ではなく、さすがに心配になって、時々「ムリしないでよ」と言ってはみたが、余命数ヶ月の末期ガン患者がこのプロジェクトを立ち上げること自体、そもそもムリをすることから始まっていることを考えると、そんなセリフがいかにも間が抜けているように思われた。
それに、どうせ、言ったって聞きゃあしないのだ。倉本ひとみは。

手足症候群は、その頃ピークに達し、「ペットボトルの蓋を開けるのもキツい」状態だった。
渡されるデモには、いつも簡単なリズムとピアノが入っているのだが、指が痛くて思うように弾けない、と言うので、「無理して弾かなくていいよ。歌がわかればいいんだから。」と返したら、「指にテープ、グルグル巻きにして頑張りまーす!」と言ってきた。スポ根ドラマのようだ。
少しでも、自分の求める音を伝えたかったのだと思う。その後も幾度となく、弾かなくていいよ、と言ったが、最後まで弾くのをやめなかった。

3クール目の抗ガン剤治療は、血液検査の結果が基準に満たず、見送りとなっていた。
その間、副作用は少しおさまるが、ガンの方は放ったらかしになる、ということだ。
そういう不安をあからさまに口にはしなかったけれど、時間がない、という思いが常に胸にあったのだろう。
ひとみちゃんは、まさに、全速力で疾走していた。

 

to be continued…

ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子

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