BFN.14
2021/08/30
コロナという新型の感染症は、1月には既に人の口の端にのぼるようになっていたが、我々にとって、それはまだまだ、他人事であった。
札幌雪まつりで感染者が出たことで(当時、芸森合宿の最中だったこともあり)、多少身近に感じるようにはなったものの、現実的な危機感を持つには至らなかったように思う。
(実際、芸森前には、時間があれば広島組には雪まつり観に行ってもらってもいいね、なんてお気楽な話もしていたのだ。行ってもらわなくて、本当に良かった。)
2月下旬、北海道は全国に先駆けて独自の緊急事態宣言を発し、この頃になって、ようやく我々も事態の深刻さに気づき始める。それでも、どうだろう、現在のような過酷な状況に陥ることを、当時、多くの人達は想像もしていなかったのではないか。
少なくとも、私はしていなかった。そのうち収まるだろう、自分が感染するなど万に一つ、くらいに高を括っていた。愚か者めっ!と、今なら思う。
そして、コロナはその後、世界中の全ての人々の生活を変えてしまうことになるが、その影響は、当然プロジェクトにも及んだ。
抗がん剤治療を受けているひとみちゃんの免疫力は、通常よりも著しく落ちている。万が一、罹患するようなことがあれば、大事に至ることは明らかだ。
外出自体が憚られたが、もちろん、通院はしなければならないし、歌入れも、先延ばしにはできない。
外出の際は、早くから、マスク・フェイスガード・消毒等、細心の注意が払われていた。
部屋には、何台もの空気清浄機があったと記憶している。
ひとみちゃんの休薬期間と河野音響の空きをすり合わせたうえ、緊急事態宣言下で打ち合わせ等がしづらい状況であることも考慮すると、スケジュールは、かなり押しそうだった。
当初の、3月中に歌入れを済ませ、4月には完パケ、夏にリリース、という予定は、それ自体かなり厳しいものだったが、こうなると、全て見直さなくてはならない。
一方で、ひとみちゃんの体調は、これまでになく良かったようだ。
芸森に向けて、副作用を嫌って投薬を休んでいたのだが、検査結果は良好で、主治医のセンセーも、今までで一番数値が良い、と喜んでくれたらしい。
「これではっきりしたなー。効いてるのは薬じゃなくて、やっぱり音楽だってこと(笑)。」
そして、体調に自信が持てたせいか、スケジュールが押すことにも楽観的でいられたようで、どうせだから腰を落ち着けて、じっくりやるよ、と言っていた。
そんなある日、「葉子ちゃーーーん、ひとつ相談なんだけど、、、もう一曲増やしたらダメかなぁ」とLINEが入った。この「ちゃーーーん」は、遠慮(するフリを!)しつつも甘えてお願いしたい、ってことなんだろうが、元より、ダメな訳がない。こちらにすれば、望むところだ。
ちょっと前まで、「ショウジやナオコ達は、もっと曲書いて、二枚目も作って、と期待してくれてますが、、、、一応これで音楽から離れるつもりです」なんぞと言って、私をしんみりさせていたのだ。
嬉しい変わりようである。
とはいえ、この「もう一曲」が「あと10曲」になる事など、私には勿論、知る由もなかった。
結果的に、皆の期待通り、「もっと曲書いて二枚目も作る」ことになったのである。
倉本ひとみ、恐るべし。
to be continued…
ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子
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