BFN.18
2021/09/27
「ca19の値がガッツリ上がっちゃった。残念無念。」
3月最後の日、ひとみちゃんから検査結果の報告があった。
ca19とは、腫瘍マーカーのひとつ。これが、前回の五倍に跳ね上がっていた。
かなり、悪い。
年末や芸森のレコーディングで、以前と変わらぬ元気そうなひとみちゃんと共に過ごし、ほぼ毎日、電話やLINEのやり取りをしている私は、ふと気付くと、彼女の病気の深刻さを忘れていることさえあった。
彼女自身は、勿論そうはいかなかっただろう。このところ続いていた上向きの検査結果にも過度な期待を抱くことなく(或いは、抱くまいとして、だろうか)、冷静に自分の病状を受け止めていたと思う。
それでもやはり、「あと1年は生きられそう」と言っていた1年を、もしかしたら2年、3年にできるかもしれないという思いは、心の片隅に僅かなりとも、あったのではないか。
それを打ち消されてしまうような、今回の検査結果だった。
結果自体はもちろんのこと、彼女の心情を思うと、心が重かった。
そして、彼女の時間には限りがあることを、あらためて突きつけられた気がした。
前年9月に連絡をくれて以来、ひとみちゃんが、病気のことで私に弱音を吐いたことは一度もない。
体の不調や辛い副作用についても、こちらを心配させないように、いつだって、ちょっと茶化すかのように話していたのだ。
この時も、あからさまに落ち込んだ様子は見せず、「まぁ仕方ない(笑)ここまで順調にこれたことに感謝だわ!みなさんのおかげ!」とは言っていた。
だが、その後の会話での、「まだ歌残ってるのに、貫徹できるか微妙」「秋のライヴは難しそうだね」「効かなくなってるなら、もう抗がん剤、やりたくないな」という言葉の端々に、彼女の落胆ぶりが痛いほど感じられた。
いろいろと心労が重なっていたところでもあり、思わず口をついて出た言葉だろう。
ひとみちゃんが、こんな弱気な事を口にしたのは、後にも先にも、この時だけだ。
夜にはもう、「朝はごめんね」といって、明るい調子のLINEが送られてきた。
「それにしても、アキトモ、私以上に落ち込むのやめて欲しいわ~、腹立つ!」と悪態をついている。
いやいや、傍にいるアキの辛さは、察して余りある。見えないからいいようなものの、私だって、その日は相当辛気くさい顔をしていたに違いないのだ。それをそんなふうに言われるとは何とも気の毒だったが、これが、アキとひとみちゃんだ。彼女らしい物言いに、少しホッとする。
その後も、二人して、アキの悪口を言ったり、ホリエさんの口癖を真似したり、音楽とは全く関係のないしょうもないやりとりを続けて、笑い合った。
最後には、「やれることは全部やっていく。さらにマキマキで走ります!」と力強く言ってくれた。
この日、ひとみちゃんの頭と心の中で起きたことの全てを、知る事はできない。
ただ、彼女はきっと、これまで以上に「強くあろう」としているんだな、と、私は感じていた。
宣言通り、ここからまた、ひとみちゃんは、時には「暴走!?」と思われる程に、突っ走っていく。
そして、私達は、その姿を追うようにして、最後まで伴走するのだ。
to be continued…
ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子
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