2008年夏…

2021/03/21

2008年夏…だったと思う。

当時、私は歌うことから離れ、音楽制作会社を設立。
全国のライブハウスと提携し、インディーズアーティストを取り上げるイベントを切り盛りしていた。

場所は忘れもしない…大阪バナナホール。
楽しみにしていた大阪本戦だった。
順調にリハも進み、スタッフと談笑している所に…一本の着信。
実家の番号だった。

おや?と思って電話に出ると父の捲し立てる声。
「おい!母さんが階段から落ちて足骨折したぞ」
元々、大仰に人を責めるような物言いをする人なので
落ち着いて話してみてよ、と宥めても
「お前が居ないからこうなった!」の一点張り。

明朝、慌てて北海道に飛び…病室に駆けつけると
ベッドでグッタリしている母の姿。
左脚を包帯でグルグルに巻かれて吊るされて
驚くほど小さくなった姿。

2006年に脳梗塞を発症し上手く回らなくなった口で
何度も「忙しいのにごめんね、ごめんね」という。
明るく、大丈夫?すぐ良くなるよって腕を摩ると
私の手をギュッと握り、気丈に「すぐ帰んなさい。メンバー待ってるんでしょ?」
未だにこの時の会話は忘れられない。
制作会社を始めた事を知っているはずなのに
しばらく会わないうちに記憶が抜け落ちているんだな…
記憶が曖昧なんだな、そう気づいたけれど…
本当は少々後ろめたかったから。
母はまだ私がステージに立ってると信じてる事に。

それから母の入院は長引き、
三ヶ月に一度の帰郷が、二ヶ月に一度、一ヶ月に一度になり…

2010年12月30日。

正月休みのつもりで実家に立ち寄った私は、
そこから10年間、東京に帰れなくなった。

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