BFN.33

2022/01/10

制作を始めて早い段階から、ひとみちゃんの頭には、作品の発表の場として、配信をメインに据えたいという考えがあった。

「還暦に近い病身シンガーの自分が勝負できるのは、掛け値無しで純粋に曲を聴いてくれる世界の人」とは、ひとみちゃんの言である。
まぁ、彼女の歌を聴いて「還暦近い病身」と感じる人は一人もいるまい。そのことは断言してもいいが、配信をメインに、という考え自体は正しいと思う。
事実、私のように未だCDを有り難がる人間も存在する(もっと言えば、アナログ盤に針を落としたいくらいなのだ。)とはいえ、世の中は今や、配信の時代だ。
曲を探すのも聴くのも便利だから、もちろん自分でも利用しているし、知り合いの中には、そもそもCDを再生する機器を持っていないという人さえ、結構いる。
そして、作り手の立場からすれば、なにより配信は、「世界に向けて」発信できる手段である。

この配信の「音」に関して、ひとみちゃんは、拘りぬいた。
手始めに「果実ホロ苦く」を配信用に新たにTDし直し、さらに、そのマスタリング・エンジニアをなんと海外に求め、著名なマスタリング・スタジオ STERLING SOUNDの Joe LaPorta に依頼した。
Joe は、ひとみちゃんお気に入りの Mahalia や Elli Ingram を手がけた売れっ子エンジニア。
デビッドボウイのアルバムでグラミーを獲っているということは、後で知った。
今は、データのやり取りで、こんなことが簡単にできるのだ。ということも、初めて知った。
ともかく、これは初の試み、どんな仕上がりになるのか、我々も大いに楽しみであった。

10月半ばには、そのマスタリングがあがってきて、ひとみちゃんもアキも、「自分達が聴いて来た洋楽の音だ!」と、手放しで喜んでいた。
私はといえば、マスタリングレベルの音の違いが、けっこうなバカ耳の自分にわかるのかしら、と少し不安だったのだが、聴き比べると違いはわかった。ほっ。
私の感覚では、Joe のマスタリングの方は、Lowが特徴的で、太く広がりのある(この表現が妥当かどうかわからないが)、私も好みの音だ。
彼の音で「Good-bye 瑠璃」も聴いてみたい!というひとみちゃんの意向で、後日、これもリマスタリングに回された。この曲があがってきた時の、ひとみちゃんとアキの絶讃っぷりは前回以上で(アキなど、「ついにグラミー賞が本気を出した感じすらします」とまで言っていた)、それにより、これ以降に出来た全ての曲を、Joe が手がけることとなった。

この度発売された「Proof of Life」は、後半に作られた楽曲が多いので、Joe のマスタリングで統一されている。まだ先のことになるが、二枚目は、バーニーグランドマンの前田氏のマスタリング作品となる予定だ。前田氏のマスタリングも素晴らしいし、そちらの方がクリアでバランスが良いと感じる人も多いのではないかと思う。そもそも、良し悪しではない、好みの問題である。
どっちも買って、聴き比べてね。と、今から宣伝しておく。

制作の方では、この10月も、ひとみちゃんにとっては、かなりのハードスケジュールだった。
治療との兼ね合いがあるので、スタジオ作業は、どうしても休薬期間に詰め込む形にならざるを得ない。
歌える限り制作を続けたいという本人の意志を、プロジェクトメンバーも理解し、それに賛同していたが、今になって振り返ると、この頃、彼女の体は悲鳴をあげ始めていたのかもしれない。

to be continued…

ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子

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