BFN.29

2021/12/13

「Pinky」は、Han-naが札幌のアマチュア時代から演っていた曲だ。
昔からのファンにはおなじみだろう、私もライヴで何度か聴いている。
イントロのギターリフがカッコよくて、印象的だった。

元々、Han-naのアルバムに入っていないのが不思議だったが、出す予定はあって、レコーディングも済んでいたそうだ。解散したので、結局、お蔵入りとなったらしい。
オリジナルはアップテンポのロック・ナンバーだったが、これを今のヒトミィクはどう料理するのか。
ギターをメインにした打ち込みということで、ここは、元Han-naのギターコンビ、アキとケイゾウの出番である。今度こそ、高みの見物だ。
LINE上では、早速やり取りが始まっている。まずは、やはりコード付けで苦労しているようだ。
ふふふ。

一方、この頃というか、これ以降のホリエさんは、ちょっと気の毒なくらい大忙しだった。
新曲をアレンジし、オケを作りつつ、次回のTDの準備もしなければならない。
そして勿論、このプロジェクトにかかりきりになるわけにもいかないのだ。
普通に「締め切りのある」仕事を何本も抱えているし、プロデュースしているバンドの面倒もみなければならない社長さんである。
相変わらず、昼近くに「これから、ちょっと寝ます」という、不健康きわまりない生活をしていた。

8/20、この日の検査結果も、数値はキープ。恐れていた浮腫もないということで一安心だったが、ひとみちゃんは、副作用により、また動けなくなることを心配していた。

告知を受けた当初から、彼女はしばしば、QOL(=Quality Of Life )について話していた。
QOLとは、文字どおり、「生活の質」とか「人生の質」といった意味である。
多少寿命が延びたとしても、薬でフラフラの毎日では意味が無い。それよりは、たとえ短い時間でも、最後まで走り続けていたい。ひとみちゃんは、ずっと、そう言っていた。
それまでも、折に触れて、治療のやめ時について話すことはあったが、ここにきて「時間が無いのに、投薬すると二週間は動けなくなる」ということが、彼女の心に大きくのしかかってきたようだ。
「そろそろ考えなきゃいけない時期に来たのかもしれないね」と口にするようになった。

こればかりは、本人に任せるしかない。私自身は、彼女に対しては「どんな選択をしても、支持するよ」と言ってはいたが、本音では、少しでも効いているのなら、抗がん剤を続けて欲しいと思っていた。
しかし、「どんな状態でも1分1秒でも長く生きていて欲しい」と願うのは、人情ではあるが、実のところ、こちらのエゴであることもわかっている。頑張って続けて、とは言えない。
いずれ、彼女が何らかの選択をし、周囲の私達もそれを受け入れなければならない時が来るだろう。
その時、しっかりと彼女の気持ちに寄り添える自分でありたい。そう思うしかなかった。
とはいえ、まだ、その時期ではない。
今のところ、抗がん剤は結果を出していたし、副作用が治まれば、まだまだ精力的なひとみちゃんなのだ。
音楽を創り続けてさえいれば、いつまでも生き続けてくれるんじゃないかと、こちらが錯覚してしまうくらいに。

そして、9月2日。彼女が余命宣告を受けてから、ちょうど1年が経った。

to be continued…

ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子

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