BFN.25

2021/11/15

セカンドラインの抗がん剤はそれなりに効いていたし、「音楽のチカラ」によるものか、現場に出れば誰よりもエネルギーに満ちたひとみちゃんであったが、やはり、体調には波がある。
ひどい腰痛に悩まされたり、「いきなりネジが切れたみたい」に体調が急変して寝込むこともあって、そんな時はやはり、少し落ち込んでいた。

7月に入ってすぐ、ショウジが札幌に飛び、河野さんや大山監督も交えて、今後のワッカ・ミュージックのことや配信についてのミーティングが行われた。
ひとみちゃんは、ちょうど体調不良とストレスが重なって、ネガティヴになりそうな時だったらしいが、この集まりが、良い刺激になったようだ。「前向きなミーティングで、活力をもらった」とのこと。
「おかげで心機一転!まだまだ踏ん張らなきゃ!」と決意を新たにしていた。
河野さんにしろ大山さんにしろ、この頃既に「仕事」の範疇を越えて、このプロジェクトに関わり、ひとみちゃんを支えてくれていた。ありがたいことである。そしてまた、彼らをそうさせたのは、何と言っても、倉本ひとみの人間力だろう。

7月半ばには、ようやく全てのエディットが終了し、予定の10曲プラス2曲(「Good-bye」「有明」が2versionになった為)はTDを待つばかりとなった。曲をチェックしながら、しばし、感慨にふける。

「果実ホロ苦く」「黄昏のマドリガル」
当初から、打ち込みモノとしてホリエさんに委ねられた2曲。どちらもホリエさんらしい、緻密ながらもポップなアレンジが光る。そして、「果実」の星さんのコーラスが、異彩を放つ。
「人魚、還る」
最後の「遠くへ…」のところでグッときて、いつも泣きそうになる。ひとみちゃんの強い希望で、ホリエさんがギターソロを弾いた。随分固辞していたようだが、たまには、弾く身になるがいい。
「カサブランカ」
この主人公に、私はずっと、ひとみちゃんを重ねていた。当時の彼女ではなく、その何年か前、「もう歌わないの?」と訊いた私に「今の暮らしに満足してるよ」と答えたひとみちゃんの姿だ。
「シエスタ」
映画音楽を意識したこの曲は、その歌詞の世界観自体が一幕の映画を観るようだ。私には特別な一曲。
「Prussian blue」
「もう一度歌ってね」という今は亡きお母様の希望を、ひとみちゃんは、しっかり叶えた。沁みる。
「風になりたい」
バンドで最初にレコーディングした曲。なおちゃんのエスニックなヴォイスが、曲の世界を広げている。
「Good-bye 朱鷺・瑠璃」
実は、もうひとつ、アキトモver.もあったのだ。結局うやむやになったが、いつか形になったら楽しい。その時は、「Good-bye 萌黄」にしてやろう。
「有明の月を見ている」「有明の月を見ていた」
この二曲のホリエさんのアレンジは、今回の作品中、私の一押し。特に、ヤンズから引き継いだ「見ている」を、ギターとカホンのみの状態から、ここまで持ってきたのは、さすが。
そして、記念すべき一曲目、「CONCIENCIA」。すでに懐かしいな。

「一区切りつきましたね」と、ひとみちゃんも感慨深げだったが、そう、その言葉通り、ここはまだ通過点に過ぎなかった。
ヒトミィク・プロジェクト、第2章の幕開けである。

to be continued…

ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子

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