BFN.21

2021/10/18

 

「CONCIENCIA」は、プロジェクトが最初に手がけた曲である。
前年10月、ひとみちゃん宅で仮ピアノを入れ、その後バンドで形を作り、年末にレコーディング。
コーラス、サックス、歌を入れ、最終的にホリエさんの手を経て、ようやく完成した。
あれから半年、随分時間がかかったが、納得の仕上がりだ。

記念すべき一曲目の完成に、ひとみちゃんも、我々プロジェクトメンバーも感無量だったが、さらに嬉しかったのが、星さんから大変なお褒めの言葉をいただいた事だ。

「ビックリするくらい褒められました」「歌もここまでOK出されたの初めて」と、ひとみちゃん。
星さんは、優しく温かいお人柄の御仁であるが、こと音楽には厳しく真摯な方だ。たとえ、病身の彼女に対する気遣いがあったとしても、口先だけの嬉しがらせをおっしゃる方ではない。
その星さんの口から、「素晴らしい出来」「これらが何曲も並ぶかと思うとゾクゾクする」とまで、仰っていただいた。私達は、素直に大喜びした。

これを皮切りに、レコーディングが完了した曲達は、次々にエディットに、それが終わるとTDに回された。ゆっくりとではあったが、着実に作業は進んでいた。
が、この頃のひとみちゃんは、リリースの時期云々を、あまり考えなくなっていたように思う。
それよりも、時間に追われる事なく、一曲一曲を、とことん納得のいくまで創り込むことに意欲を燃やしていた。また、それこそが、彼女のやりたかったことだろう。

コロナという不測の事態により、こちらの思惑以上に作業が遅れたのは事実だが、元より、このプロジェクトには明確な「締め切り」がない。
「締め切り」があるとすれば、それは、「ひとみちゃんの時間」だ。
彼女の時間が許すのなら、作業がどれだけ押そうが、私達は構わなかった。

5月中旬、万全の注意を払いながら、ひとみちゃんの歌入れが再開した。
いきなり、4日連続でスタジオに入り、3曲の歌とコーラス(たっぷり!)を入れている。
さすがに疲れただろうと思うのだが、曰く、「家でダラダラしてるよりずっと体調がいい」「音楽やってると、どこもツラくない」のだそうだ。
コロナ禍で鬱々とした日々を送る中、そんな彼女の姿に、こちらの方が元気をもらっていた。

その翌日から、新しい抗がん剤の投与が始まった。
旭川時代には、医師に頭から「効かない」と言われて、試さなかった薬らしい。
今回の副作用は、これまで以上に辛そうだった。「長時間正座した後の足の痺れが全身に広がる」という。これが数時間で消えるわけではない、何日も続くのだ。想像しただけで、しんどい。
加えて、冷気に対して過敏になり、温風も冷風に感じられ、常温の飲み物も飲めず、少しでも冷たい物に触れると火傷したかのように「あちっ!」となるという。
その様子を、いつも通り、面白おかしく伝えてくれてはいたが、実際は相当に辛かったと思う。
しんどい思いをするのだから、この薬が絶対にガンの進行を抑えてくれるよう、願うばかりだった。

この頃には、懸案だった「Good-bye」と「有明の月をみていた」のアレンジも見えてきて、ラフな形ではあったが、なんとか歌入れに間に合わせることができた。
時間もかかり、苦労もあったが、この二曲は、ちょっと面白い展開になってきていた。

 

 

to be continued…

ヒトミィク・プロジェクト 広本 葉子

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